私が「それでも治療を始める!」と悩み、判断した歯について②

「それでも治療を始める!」と判断した前歯(右上1・2番)について

本症例は、

他院で根管治療を受けていましたが、

なかなか症状の改善が得られず、

当院を受診されたケースです。

治療対象(患歯)は、

右上1番・2番の前歯でした。

レントゲン所見から、これらの歯は

決して保存条件の良い状態ではありませんでした。

本症例の状態について

右上1番では、

根尖部の破壊が非常に大きく、

長期間にわたり感染が持続していたことが

推察されました。

一般的には、

「ここまで根尖が壊れている場合、保存は難しい」

このように判断されても不思議ではない状態です。

右上2番についても、

根尖は開大しており、

さらにコア(土台)が頬側方向に逸脱気味に

入っていることが確認されました。

これは、

根管内の感染制御を考えるうえで、

大きな不利条件となります…

なぜ、この歯は治らなかったのか

この症例が改善しなかった理由は、

治療回数や処置の仕方において、

不足していたからではありません。

  • 感染が成立してからの期間が長い
  • 前歯であるが、根尖破壊が進行している
  • 歯根が吸収されて、短くなってしまっている
  • 根尖開大により、封鎖性が得られにくい
  • コアの位置が、再感染リスクを高めている

これらの条件が重なれば、

通常の根管治療を繰り返しても

治癒に至らないことは十分に考えられます。

重要なことは、

「誰かの治療が悪かった」という話ではなく、

歯が置かれていた条件そのものでした。

それでも治療を始めるかどうかの判断

この症例で、

私が最も慎重に考えたことは、

「この歯に対して、まだ治療として向き合う意味が残っているか」

という点です。

  • 感染源は歯の外ではなく、歯の中にある
  • 根管内にアプローチできる余地が残っている
  • 無菌化を目指すための環境を整えられる
  • 治療の限界とリスクを、患者が理解している

これらを総合的に判断して、

「治る保証はないが、挑戦する価値はある」と

判断しました。

この治療で最も大切にした考え方

本症例において、

最も重要だったことは、

「どこまでやるか」を最初に決めることでした。

  • 無理に根尖を追いすぎない
  • 形態を過度に整えない
  • 感染制御を最優先にする

前歯であっても、

「攻めすぎないこと」こそが

成功条件になるケースがあります。

患者さんには、

「この治療に対しては、

無理に攻めないことが一番大切です」と、

事前に説明して治療することを開始しました。

治療の経過と結果について

根管内をむし歯を染め出す染色液で確認しているところです。
根尖部の不良肉芽を高周波電流治療によって焼灼しています。
根管内をアクティベーション洗浄によって徹底的に消毒。

治療後、症状は段階的に落ち着き、

治療前と比較して明らかな改善は認められました。

一方で、

根尖部のダメージが大きかった1番については、

慎重な経過観察が非常に大切で、

必要な状態であることも事実です。

私はこの症例を、

「治った」「治らなかった」という

単純な二択で評価していません。

この症例から伝えたいこと

この前歯の症例を通して、

改めて強く感じたことは、

歯を残す治療とは、

結果だけでなく、

そこに至る判断プロセスそのものが

重要であるということです。

  • なぜ治らなかったのか
  • どこに限界があるのか
  • それでも、どこまで向き合うのか

これらを共有したうえで治療を行うことが、

患者さんにとっても、

後悔の少ない選択につながります。

最後に

もしここまで読んで、

「自分の歯も、似た状況かもしれない」

そのように感じたならば、

その感覚は間違っていないと思います。

治療を受けるかどうかは、

今すぐ決める必要はありません。

ただ一つ大切なことは、

「よく分からないまま進まないこと」です。

歯を残すかどうか以上に、

納得した判断ができるかどうかというものが、

この先の後悔を大きく左右します。

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