私が「それでも治療を始める!」と悩み、判断した歯について①

ある難症例について

この歯を前にして、

私は「治療すべきかどうか」から考えました。

できるかどうかではなく、

やるべきかどうかを判断する必要があった歯です。

本症例について

本症例は、

決して条件の良い歯ではありませんでした。

  • 3根管すべてで根尖部の破壊が認められる
  • MB根は強く湾曲している
  • MB根とDB根の分岐部にはパーフォレーション(偶発的穿孔)が存在
  • MB根における根尖周囲に病変あり

一般的には、

「非常に難しい」「予後が厳しい」

このように判断されても不思議ではない状態です。

私自身も、

すぐに治療を始めるべきかどうかは迷いました。

患者さんに最初にお伝えしたこと

私は、治療に入る前に

患者さんに対してこのように説明しました。

「この歯は、簡単な治療ではありません」

「やれば必ず治る、とは言えません」

「途中で治療方針を変える判断が必要になる

可能性もあります」

その上で、

「それでも、条件付きで挑戦する意味はあると

考えています」

以上のようにお伝えしました。

それでも治療を始めると決めた理由

私がこの歯の治療を始めると判断した理由は、

無理をしなければ、意味のある選択になり得ると

考えたからです。

  • パーフォレーションの位置と形態が、
    MTAによる封鎖を検討できる条件である
  • MB根は強く湾曲しているものの、
    マイクロスコープ下における根管の形成が成立する可能性があると判断
  • 感染源を適切にコントロールできれば、
    骨欠損の進行を抑えられる余地がある

これらを総合して、

私はこの治療に対して、

「やる価値のある挑戦」だと判断しました。

この治療で最も大切にした判断

この症例において、最も重要であったことは、

「どこまでやるか」を決めることでした。

  • 無理に形態を整えすぎない
  • 根尖部を追いすぎない
  • 感染制御を最優先にする

そのため、治療戦略の中心には

MTAを用いた封鎖を据えました。

患者さんには、

「この治療は、攻めすぎないことが

成功条件になります」

このように説明しました。

根管治療というものは、途中で引き返す判断も含まれます

根管治療は、

始めたら必ず最後まで

続けなければならない治療ではありません。

治療の途中で、

  • 期待した反応が得られない
  • かえって条件が悪化する

そのように判断した場合には、

方針を変える決断も必要になります。

それらの可能性も含めて、

正直に説明した上で治療を始めることが、

専門医としての責任であると、私は考えています。

この症例から伝えたいこと

歯を残すかどうかは、

技術や設備だけで決まるものではありません。

  • 状況を正確に読み取ること
  • 無理をしない判断
  • そして、どこまで責任を持って向き合えるか

この症例は、

技術よりも「判断」が問われた一歯でした。

最後に

すべての歯に対して、

同じ判断になるわけではありません。

残せない歯もあります。

挑戦すべきでない歯もあります。

だからこそ私は、

一歯一歯、立ち止まって考えます。

それが、歯内療法専門医としての

私の仕事だと思っています。

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