


ある難症例について
この歯を前にして、
私は「治療すべきかどうか」から考えました。
できるかどうかではなく、
やるべきかどうかを判断する必要があった歯です。
本症例について
本症例は、
決して条件の良い歯ではありませんでした。
- 3根管すべてで根尖部の破壊が認められる
- MB根は強く湾曲している
- MB根とDB根の分岐部にはパーフォレーション(偶発的穿孔)が存在
- MB根における根尖周囲に病変あり
一般的には、
「非常に難しい」「予後が厳しい」
このように判断されても不思議ではない状態です。
私自身も、
すぐに治療を始めるべきかどうかは迷いました。
患者さんに最初にお伝えしたこと
私は、治療に入る前に
患者さんに対してこのように説明しました。
「この歯は、簡単な治療ではありません」
「やれば必ず治る、とは言えません」
「途中で治療方針を変える判断が必要になる
可能性もあります」
その上で、
「それでも、条件付きで挑戦する意味はあると
考えています」
以上のようにお伝えしました。
それでも治療を始めると決めた理由
私がこの歯の治療を始めると判断した理由は、
無理をしなければ、意味のある選択になり得ると
考えたからです。
- パーフォレーションの位置と形態が、
MTAによる封鎖を検討できる条件である - MB根は強く湾曲しているものの、
マイクロスコープ下における根管の形成が成立する可能性があると判断 - 感染源を適切にコントロールできれば、
骨欠損の進行を抑えられる余地がある
これらを総合して、
私はこの治療に対して、
「やる価値のある挑戦」だと判断しました。
この治療で最も大切にした判断
この症例において、最も重要であったことは、
「どこまでやるか」を決めることでした。
- 無理に形態を整えすぎない
- 根尖部を追いすぎない
- 感染制御を最優先にする
そのため、治療戦略の中心には
MTAを用いた封鎖を据えました。
患者さんには、
「この治療は、攻めすぎないことが
成功条件になります」
このように説明しました。
根管治療というものは、途中で引き返す判断も含まれます
根管治療は、
始めたら必ず最後まで
続けなければならない治療ではありません。
治療の途中で、
- 期待した反応が得られない
- かえって条件が悪化する
そのように判断した場合には、
方針を変える決断も必要になります。
それらの可能性も含めて、
正直に説明した上で治療を始めることが、
専門医としての責任であると、私は考えています。
この症例から伝えたいこと
歯を残すかどうかは、
技術や設備だけで決まるものではありません。
- 状況を正確に読み取ること
- 無理をしない判断
- そして、どこまで責任を持って向き合えるか
この症例は、
技術よりも「判断」が問われた一歯でした。
最後に
すべての歯に対して、
同じ判断になるわけではありません。
残せない歯もあります。
挑戦すべきでない歯もあります。
だからこそ私は、
一歯一歯、立ち止まって考えます。
それが、歯内療法専門医としての
私の仕事だと思っています。
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